影絵がそよぐ家
築33年を数える木造住宅1階部分のリニューアルです。
子供たちが巣立った60代のご夫婦が、老後の生活を楽しめる住宅を目指しました。
「和室と洋室の間の障子が動かない。
台所の出窓に手が届かない。
ものが増えて収納が足りない。
水廻りは傷みが酷いので設備とも一新したい。」
現在は2階に寝室がありますが、将来を考え、1階のみで生活できるよう、洋室(6帖)+和室(6帖)を1室の広間とし、更に和室にあった床の間と押し入れ部分を広間の一部になるようなクローゼットに作り替え、玄関空間をも広間の一部へ取り込んで、16帖余りの大空間に仕立てました。
これは、将来介護が必要な状態になった場合、トイレや脱衣空間を広間に拡張して使うことができるようにという配慮でもあります。収納しきれていなかった「たくさんのモノ」たちは、機能的に収納できるよう新たに納戸を計画することで解決し、広々とした広間はモノを置かずにスッキリとした空間として使え、お子様ご家族が訪ねてきても、ゆったりと過ごせるようになりました。
2室を1室としたことで、新しい広間には間口5mを超える大開口が出現しました。これに障子を取り付けたことで、毎朝、庭の木々が大きな障子をキャンパスに美しい影絵を作り出します。時に風にそよぐ影絵は、お昼過ぎ迄、この家にゆったりとした時間を紡ぎだしています。
トイレや洗面といった扉で仕切るような空間は、扉を開け放った状態が通常の状態として成り立つよう、室の配置や機器のレイアウトを工夫し、キッチン、洗面空間、トイレが広間に連続するよう、視線が行き止まらないのびのびとした空間としました。
「サッシの内側に障子を付けたことで、暖かくなった。エアコンの効きも向上した。
午前中、障子に映る庭の木々の姿が美しく、毎朝が楽しみ。しばらく眺めている事もある。
納戸を含め、収納スペースがたくさんあるので、家具を減らすことができ、スッキリした。」
というお言葉を頂きました。
玄関から広間を覗く。
階段から先=2階はそのままなため、階段口はまるでタイムマシーンの入り口のようです。
和室にあった床柱をはじめ、構造に改変を加えないよう柱を残して一部を現しにしました。
さりげなく従前の姿を残すことで、この家の記憶を保存しました。
玄関は割り切って、できるだけ面積を広間へとり込みました。
向かって右手奥はトイレですが、普段は扉を開けて、なるべく視線が遠くへ届き、広々感じられるようにしました。
トイレを使用する時のみ扉を閉めるようになっています。
玄関、トイレの手洗いコーナー、階段口の構成。
現しになった柱が、この空間のワンポイントになっています。
床柱あたりからの広間全体の様子。
正面の白いボリュームに、納戸、キッチン、サニタリーが納まっています。
和室と洋室をつないで一つの部屋にしました。1階で暮らすようになった場合でも、ベッドのレイアウトなどに自由度の高い空間です。
2部屋分つながった開口部に障子を取り付けて、庭の木々を映すスクリーンにしました。
床の間と押入はウォークインクローゼットに変身しました。
1階だけで生活するようになった場合にも便利に機能するでしょう。
広間のダイニングスペースから見た全体の様子。
出窓に手が届かなかったキッチンは、キッチンセットのレイアウトを変えて、普通の窓として使えるようにしました。
階段下のスペースに洗濯機置き場を作り、家事動線の短縮化を図っています。
広間からサニタリーへも空間を連続させ、脱衣をするときだけ扉を閉めて使います。
サニタリーから入った光も広間へ届き、風通しの良い気持ちの良い空間になっています。